どこの国でも選挙に当たっては頭の少々アレゲな人が泡沫候補として出馬するのは間接民主制の常であろう。日本でも雑民党の東郷健とか羽柴誠三秀吉とかかつては大日本愛国党総裁の赤尾敏(故人・戦前には議員だったこともあるらしいが)なんかがその手のスジには有名だったのだが、フランスでも極右の泡沫候補としてジャン−マリ・ルペンというフランス国民戦線(Front National:略してFN)の党首が大統領選に出馬してはお笑い程度の得票で敗れていた。だがFNは地方選挙レベルでは結構躍進していて、保守層が強く、移民に対する差別も強い南仏(住んでるのは実際定年を迎えた人々が多いから)とかではFNが市長になったりしている市(オランジュ市)もあるくらいだったりする。が、フランスが優勝した前回のサッカーのワールドカップで獅子奮迅の大活躍をしたのがアルジェリア系移民の子であるジダンであっことなどもあって、こうした極右の動きは最近では一笑に付されるのが常であった。
ところが、今回の大統領選挙では左翼陣営が激しく分裂したことやシラクとジョスパンの二大候補の争点がはっきり言って何もないに等しかったこともあって、なんとルペンが約17%の得票を得て決選投票に進んでしまったのだ。正気の沙汰ではない。どのくらい正気の沙汰ではないかと例えれば、才能の枯渇しちゃった学者さんの渡辺某(上智大教授だっけ?)が首相候補になるくらいムチャクチャな話なのだ。
どうせフランス国内の話なんだから投票権のないお前には関係ないだろ、という向きもあるだろう。だが、ルペンは
「ヒロシマとかアウシュヴィッツなんて歴史の些末事に過ぎない」とか抜かしやがった
バカ野郎である。そんな輩はジャップとしては鉄槌を下さねばなるまい。
私がデモに参加するのを決意したのはかくの如き次第であった。で、
Le Parisienなんかを調べたところ、4/27の午後2時にレピュブリック広場からバスティーユ広場までデモ行進があるという。決断はもちろん一秒で下されたのであった。
「参加決定」(1秒)。
で、地下鉄を乗り継いでやってきましたレピュブリック広場。4/21〜22の深夜に行われたデモの時は地下鉄の出口が封鎖されたという話を聞いていたので、いざというときには隣の駅から歩いていくかと思っていたらあっさり降りられた。この段階では余り人も多くなくて、主催団体がメーデー中心のデモに移行したのかいな、とか思ってしまった。で、地下鉄出口ではUNEF(Union Nationale des Étudiants de France:全フランス学生同盟。筆者も健康保険なんかでお世話になってます)などがビラとデモ用シールを配っていた。シールは何に使うのかというと、ペロッとはがして服に貼るのに使う。いろんな団体がいろんなシールを配っていて、それらを貰って片っ端から服に貼り付ければあっという間にデモ闘士のできあがり。
これらが貰ってきた(一枚は20ユーロサンチームを出して買った)シール。赤の逆三角形を使うあたりはロシア・フォルマリズム的といった感じ。ちなみに「Smash the NAZIs」のシールを配っていた人に「Yellowはどこ行ったよ?」と訊いたら「シールの地が黄色なんで勘弁してくれ」と言われた。アラブ系の人々には黄色人種もいると思うんだけどなあ。で、左下にあるF-Haineというシールは一種の言葉遊びでできていて、Haine(憎しみ)はフランス語ではエーヌと発音するところから、FNが人種的・民族的憎悪を煽り立てる集団であることを揶揄しているわけだ。
1時45分頃。レピュブリック広場はまだ人もまばら。いかにも極左の活動家然とした人たちは無論結構いて、どこもトロツキスト系の人たちは似たような感じになるのねえ、とか感じる。そのうち何人かはチェ・ゲバラのTシャツなんかを売っていて、ちょっと欲しくなってしまった。
でも続々と人は集まってきており、貰ったビラなどを読んでいたところ
Étincelle(火花)という極左のグループのひとが「プラカード要らない?」と訊いてきたので受け取る。プラカードには「5月5日はルペンには一票たりとも入れるな!ナチ野郎には居場所はねえ!(Pas une voix pour Le Pen le 5mai! Pas de quartier pour les NAZIS!)」とか書いてあった。すげえ過激だなあ。FNは反ユダヤ人主義においてネオナチとの親近性もあったりするから強ち無茶苦茶な同一視とは言えないのだけど。
2時過ぎ。最初は晴れていたのに一転して曇天。小雨もぱらつく事態になる。以後ずっと晴れたり雨が降ったりという不安定な天気が続く。人は続々と集まりつつあり、レピュブリック広場一帯にも交通規制が敷かれ始めた。デモのルートになっている道路は全て自動車が入ってこなくなった。いよいよお祭りの始まりだという雰囲気が盛り上がってくるのだが、デモ隊は一向に動く気配がない。というかデモ隊の隊列すら組む気配がない。それぞれの集団や参加者がそれぞれ気ままにダラダラしているという感じ。
一応予備知識として付け加えておくと、レピュブリック広場に飾られている女性(の彫刻)の名前はマリアンヌという。マリアンヌはフランス共和国の愛称でもありいろんな所に使い回されている(下参照)が、有名どころではドラクロワの『民衆を導く自由の女神』の画面中央で三色旗を振りかざしているのがマリアンヌである。
たとえばこれに使われているのもマリアンヌ。
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