2008年04月
lou provinceau!!  (2008.04.22)

フレデリック・ミストラルの『ミレイユ』(邦題『プロヴァンスの少女』)を読む。短い話なので実質一日で読み終えた。

話の筋はどこにでも転がっていそうな典型的な悲恋の物語なので取り立てて論ずるのには値しない。だが、そこかしこに現れるプロヴァンス地方の風物の描写のかぐわしさ、清らかな祝福に満ちた情景、言語がそのまま歌になってしまうような、プロヴァンス語の歌唱性が持つ官能性がこの上なく豊饒なかの地の光に満ちた風景を喚起してくれる。カマルグを渡ってくる風。オリーブの林に降り注ぐ柔和な太陽。ロキュブリュヌ(厳密にはプロヴァンスではないが)の街から見下ろすどこまでも青くそして暖かな大気をはらんだ海。夕暮れ時に耳に響く漣の音。肯うに値すると一時的にであるにせよ生を祝福してくれる穏やかさと力強さを湛えた人々。ああ!何もかにもここにはない!弛緩した緊張と摩耗した希望の澱をひたすら溜め込むのはもういい加減嫌になった!


海流の中の島々  (2008.04.07)

寒暖の差が激しいせいか、少々体調を崩している。汚い話だが、鼻水がひどい。仕事は相変わらずテキトーに流しているが、週末になると厭世感はいや増して完全にダメ人間になってしまう。常態からして貴様はダメ人間だろというのはさておくとして。

で、日曜は知人達と食事も兼ねて新宿に出かけた。かなり早めに現地に着いたので、色々と個人的な細かい用事を済ませ、待ち合わせの場所へと向かう。それでも時間が相当余ったので、ラウンジにてフローズン・ダイキリ(ストロベリー風味)を注文し、ちびりちびりと呷りながら本を読んで時間を潰す。昼間っから一人で酒飲んでだらけていたわけです。ああ、本当にダメ人間ですね。

季節柄というべきか場所柄というべきか、矢鱈にカップルや女性のみご一行様が多い中、知人達とお喋りをして過ごす。

いや、正確にはお喋りではない。感情や思考が言語を媒介にしてやりとりされているのではなかったからだ。ともすると沈黙によって極めて退屈になってしまうのを隠蔽するためにその場しのぎのつまらぬ言葉を思いつきで手当たり次第に投げつけているだけだった。正直、不毛だ。鬱病一歩手前のノイローゼになってSSRIの投薬治療を受けていた時に感じた、世界からの疎外感がまた回帰してくる。

この種の孤独と寂寥はここ1年半ほどの間に更に強く感じるようになったように思う。無論、ある種の自由は孤独という対価に拠ってようやく購われるものだ。だがそれでも、と考えてしまう自分はまだまだ人間としては甘い。


レストランミヤハラに行ってきた  (2008.04.05)

仕事のヒマラヤ山脈にもとりあえず終わりが見えてきたし、全体会議の折に努力賞ということで金一封を頂戴したので、その還元も兼ねて昨晩は会社の同僚と神楽坂のレストランミヤハラ(http://www.restaurant-miyahara.com/)に行ってきた。神楽坂といっても、何だか知らないうちにトゥーエルやらラリアンスやらができてフランス料理の激戦区になってる神楽坂のメインエリアからは少し離れたところにある。

で、食した料理は以下の通り。
■前菜
自家製完熟トマトの冷たいスープ
特製えぞ鹿とフォアグラのパテ

ザ・トマト
生ウニのコンソメゼリー仕立て
■メイン
アイナメのポワレ
リードヴォーフォアグラ豚足のパルマンティエ
■デザート
タルト・タタン
アーモンドとチョコレートのクレームブリュレ

全体的には野菜の味が攻撃的ではなく、甘味と旨味のあるレベル。完熟トマトは濃厚な口当たりながらコンソメ等の味が強く残らないので、フレッシュな印象を残す。
給仕氏の応対は嫌味がなく、ここしばらくの結構アグレッシブな応対になれていた身としては少々拍子抜けするくらいあっさりしたものだが、このくらいの方が気楽に食事ができるので疲れない。

以下各論。
1. 自家製完熟トマトの冷たいスープ
冷製スープとしてはヴィシソワーズなんかは個人的にたまに作りますが、それにガスパッチョの風味を加えた印象。但し勿論のことパプリカ系の味はしません。
口に入れたときにはまずトマトのさっぱりとした酸味のある甘味が感じられ、味わってゆくうちに香りが漂ってくる。これが温かったらひどく貧乏くさい味になるので、冷たくていい感じ。冷製だから仕方ないのだけれど、もっと野菜臭い方が私個人は好きなんですが、あんまりやり過ぎてしまうと単なる田舎風味になるので、難しいところです。

2.特製えぞ鹿とフォアグラのパテ
パテの類はフランスにいたときには食事をするのが面倒臭いときなどに重宝していた(パテをパンに塗って適当に酒を飲みながら食って食事はオシマイ)のだが、ずっと上品。昔の習慣でパンに塗って食べたかったけど……
えぞ鹿とフォアグラのパテはややこってり系の味。脂がやや強かった印象はあるが、鹿の肉は時々ある種の肉っぽさが酒の味にまで侵蝕してくるものだが、フォアグラ(鴨)の香りがそれを中和する。でももうちょっとフォアグラの味がした方が個人的には嬉しい。んー、酒はレフを飲んでいたのですが、こればっかりはピノ・ノワール系のスマートな赤を頼んだ方が良かったか。飲みきれないけど。

3.リードヴォーフォアグラ豚足のパルマンティエ
豚足大好きな私(みんなで焼き肉屋に行っても一人で豚足を食ってます)としてはフォアグラが重なるの愚を犯して注文。
パルマンティエの仕上げ方はリードヴォーとフォアグラと豚足を円盤状に整形し上下にすりつぶしたジャガイモをあてがってこんがり焼いたもの。イモのカリッとした歯ごたえとリードヴォー及び豚足のフニフニした食感をフォアグラがまとめていておいしい。ソースもパンに合い、おいしかった。

4.アーモンドとチョコレートのクレームブリュレ
アーモンドチップは一般的なもので褒めるほどのことはなし。チョコレートも普通。カカオの強い香りが欲しい。一緒についてきたバニラのアイスが非常に香りのしっかりしたものだったので、高いレベルでのバランスの調和を目指して欲しい。

コストパフォーマンスという面から考えると、普段遣いに適したいい店だと思います。フランス料理の店にしてはベルギービールが飲めたりする(しかも某ブラッセルズより大幅に安い)あたりも面白いので、お勧めです。但し、ワインリストを見る限り、ワインは想像される仕入れ値に対してかなりの高値(4.5倍程度)を設定しているので、警戒が必要です。私の経験から考える限り、神楽坂のフランス料理屋はどこもそうなんですが。


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