最近様々な場面で「ご理解頂けるように努力したい」だの「ご協力いただけるように鋭意努力したい」といった物言いを目にする。上意下達の従え式の物言いでこそなく、一見するとソフトに見えるこのような語法は、より一層救いようのない印象を持たざるを得ないのが率直なところであるように思う。

それはこの言葉が、形式こそ謙虚に見えるが、本質的には（お前のことなど私はどうでもいいが）とにかくお前は私の立場を理解しろ、と命じるに等しいからだ。特に、「伝達される」内容があくまで命令の内容のみであり、その正しさに対する検証過程が一切省略されている場合には事は一層馬鹿馬鹿しいとしか言い様のない物に堕する。この場合、言説の受け手が正しさの検証を行うことができず、いやむしろそうした言説の場から予め排除されているということそれ自体が、本来なら対等なロゴスを有する個人の対話によって構築されるはずの「理解」が単なる「命令の拝領」という意味でしか用いられていないことを示している。「ご協力」ならば事態はより一層深刻であり、指示文がもたらす帰結が自己にとってどのような利益があるのかを判定する必要性すら与えず、ひたすら「全体」に協力せよとラウドスピーカーの如くこの言葉は服従を要求するのだ。

私はあなたの指示文が正しいか否かを判断するすべを少なくとも有していない。ならばあなたはそれを無限に示し続ける義務が指示に先行して生じていると考えるべきだろう。理解を求める権利はそうした義務の充足の後に初めて成立するものである。にもかかわらずそうした営みが全くなされていないのは、多分に私を囲繞するこの公共空間での立言行為が未だに上意下達の形式を纏っていることを示している。理解を懇願する行為は他者への無限の語りかけの上に成立する。にもかかわらず一切の語りかけのプロセスをすっ飛ばして理解と協力＝服従のみを要求することはそのような他者を黙殺することの上にのみ成立する。

つまり、「ご理解頂けるように努力したい」と発言するヒトははなっからそれが他者に届く、或いはロゴスを備えた他者の了解を得ることを必要とは思っていないのだ。むしろ大切なのは、「従え」ではなく「ご理解」と安っぽいオブラートにくるんだ物言いをすることによって、あたかも自分が他人に対して穏和な、そして低姿勢な接し方をしているのですよ、というソフトな紛い物のイメージを殺虫剤のようにばら撒くことだ。それを目にする他者が日々の中で、その命令によっていかに苦しんでいるかなど全くどうでもよく、むしろくだらない雑音に過ぎないのだ（何しろ一番大事なのはその命令が徹底的に遂行されることでしかないのだから！）。そして、命令完遂のプロセスの中で対話による公共空間の形成という希望はあっけなく消毒されてしまい、他者性は数量に還元されたメタデータの中でいつの間にか窒息してしまう。


君たちには他者がない。それは実に幸せなことだろう。他者の抹殺こそ我々の文明が追い求めてきた理想の一つだからだ。陳腐なマーケティング戦略と大衆操作のテクノロジー、そして極めて高度に発達した監視技術によってその夢は一部のテクノクラートには十分手の届くものになっている。


さあ、カクメイを始めよう。